医療機関と患者さまの双方にメリットがあるオンライン診療

医療法人社団M-FOREST みやざきRCクリニック
院長 宮崎 雅樹 先生

さまざまな学会に所属し、産業医や学校医としても勤務されている宮崎先生は、「医療DX」の黎明期からオンライン診療に取り組むなど精力的にご活動されています。
今回は、宮崎先生にオンライン診療導入のきっかけや課題点などをうかがいました。

※肩書・ご活動の状況などはインタビュー当時(2023年8月)のものです。
※実際の対談は、感染症対策に万全を期して実施いたしました。

他のクリニックとの差別化がきっかけの1

――オンライン診療を始めようと思ったきっかけは何ですか?

2016年に「みやざきRCクリニック」を開業しました。オンライン診療という概念自体は20年以上前からありましたが、へき地医療のためという注釈付きでした。開業前年の2015年、厚生労働省の事務連絡により「都市部など、全国の患者さまでもオンライン診療が利用可能」と解釈できるようになった背景もあり、いくつかのオンライン診療システムがリリースされ始めていた時期だったことと、競合するクリニックが多い地域で開業するにあたり、他のクリニックとの差別化が必要だと思ったこともきっかけの1つとなりました。

――現在まで、どのようにオンライン診療に取り組まれてきましたか?

開業した翌年にオンライン禁煙治療を開始しました。なかなか注目してもらえない期間もありましたが、新型コロナウイルスの流行拡大にともなってオンライン診療の認知が広まりました。リモート勤務が増え、以前は出勤のついでに通院していた方がオンライン診療を利用するケースもありますし、感染予防のためご自宅からオンラインで受診したいという方も多くなったように感じます。

ご自宅近くにある新しいクリニックを利用するよりも、オンラインでも今までのクリニックで診てほしいという需要があるようでした。

インタビューに答える宮崎先生|日本調剤オンライン薬局サービス(NiCOMS)

――今までの取り組みで難しかったことや苦労したことなどはありますか?

当初、オンライン診療の利用者がなかなか増えなかったことで苦労し、クリニック内でオンライン診療の紹介パンフレットを配っていた時期もありました。
また、直近では、企業や健康保険組合を対象に、初診でもオンライン診療を行う取り組みを開始しましたが、初診の患者さまの場合、予約の時間になってもオンライン診療ができる状態になっておらず、スムーズに診療を開始できないといった問題が新たに生じました。そのため、事前にシステムの使い方を伝えたり、企業でどのように社内広報してもらうかを考える必要があると感じています。企業向けのオンライン診療はこれから増えてくると思いますが、現在の取り組みのなかで、“どのような場面を想定してどのような検討が必要か”などの実例を見ることができています。

――新しく取り組みを始めるときに工夫していることはありますか?

新しいことをやってみることがもともと好きなので、興味があることの延長線で始めていることが多いです。クリニックを開業する時にICTを活用するクリニックにしたかったのですが、禁煙治療などはこれまでの自分のスキルを活かせる分野でもあったので、新しい取り組みとこれまでの経験を掛け合わせることができました。

また、数社で産業医を務めていることもあり、健康経営にも興味があったのでコミットしたいという気持ちがありました。産業医としては従業員の治療を行うことはできないので、直接治療として携われるのはオンライン診療の強みだと思い、ビジネスパーソンにも興味を持ってもらえるのではないかと思いました。

「同じ医師に診てもらいたい」「医療機関を変えたくない」というニーズに応える

――オンライン診療のニーズはどこにあると思いますか?

今もオンライン診療を継続している方は、やや遠方の方が多くなっています。クリニックの近隣から遠方に引っ越した方、転勤で勤務地が遠くなり、通院することが難しくなった方など、理由はさまざまです。患者さまには、「同じ医師に診てもらいたい」「医療機関を変えたくない」という希望があり、ここにニーズがあると考えます。

――患者さまの反応はいかがですか?

満足度は高いと思います。対面診療からオンライン診療に移行した方で、対面診療に戻したいという方はあまりいらっしゃいません。オンライン診療のシステムに慣れてコツを掴んだ方だと、予約時間より前に画面を開いて待っていることもあります。もともとの対面診療時からの信頼関係があるので、状態が安定した患者さまの場合、診察時間は比較的短時間でスムーズに終えることができます。
また、クリニックでの受付・診察・会計で発生する待ち時間や通院にかかる移動時間が大幅に短縮されるので、時間の節約になるという声もいただいています。

当院では、最初は対面で診療を受けることをお勧めしています。対面で実際にお話して顔が分かる関係であれば、信頼関係が構築でき、不安感はあまりありません。症状が悪くなっている場合は対面で診察するため、直接クリニックに来ていただくよう事前に伝えています。人となりが分かっていれば、対面でもオンラインでもあまり差はありません。

もともとよく知っている患者さまがオンライン診療に移行するというハイブリットの利用方法は取り入れやすいと思います。喘息など、継続的に治療が必要でも症状が安定すると通院をやめてしまうケースが多い疾患や、転勤される方などにはおすすめです。

医療過疎地域に対する、さまざまな医師の協力体制の実現

――今後の課題点を教えてください。

現在のオンライン診療は、「都市部などでプラスαの利便性を求めて利用される」というイメージが強いですが、本来の取り組みである「地方など医療過疎地域に対する、さまざまな医師の協力体制」としてのオンライン診療も必要だと考えます。

当法人では、へき地医療への取り組みとして2022年4月から山梨県山中湖にある村立診療所の指定管理者として、運営に当たっています。運営開始からすぐに実感したのは、都心から少し離れると医療過疎はリアルに存在し、医師の確保に非常に苦労したということです。医師の偏在化という点も、ICTの力で均していくことができると考え、同診療所でも昨年から一部オンライン診療を取り入れ、医師不足を補っています。都市部の医師と地方の医師をつないで、地方の限られた医療資源を補填するだけでなく、地域医療のサポートをできることが理想だと思います。地域によっては毎日診療所に医師がいて、対面診療ができるという環境が当然のことではなくなってしまうかもしれません。
患者さま側は、「診てくれる医師が少ない場合はオンラインを活用する」というように意識を変えつつ、一方で医療機関側も患者さまに何かあった時には連携医療機関とも協力しながら、すぐに診られるよう体制を確保しておくことが求められます。

上記診療所においてはオンライン診療を行う際、医師以外のスタッフは現地にいて、看護師が血圧を測ったり、受付で処方箋を発行するというハイブリッドの対応を行っていますが、今後このような取り組みが各地で必要になってくるのかもしれません。また我々は、患者さまは対面で診てもらうような感覚で診療所に来て、実際にはいない医師がまるでそこにいるかのような臨場感を大画面で感じられるシステムを活用しています。またコミュニケ―ションはオンラインでもしっかり取れますが、例えば耳の遠い患者さまがいらっしゃる場合などは現地スタッフの助けが必要です。

このような取り組みは人材に加えてコストもかかるため、自治体のサポートなども必要になってくるでしょう。しかしながら、オンライン診療を1回経験すると、対面診療と同じように繰り返し利用してくれる患者さまも多いので、これからさらに増えてくると思われる過疎地域の事例のために、体制を整えていく必要があると考えます。またオンライン診療の活用は、現在大きな問題になっている医師の働き方改革にもつながるのではないかと思います。

――薬局に求めること、期待することは何ですか?

シンプルなことですが、オンライン服薬指導を正しく行い、確実に、そしてできるだけ早く薬を届けてくれることです。また、オンラインで使用するツールに関しては、薬剤師の方にもサポートしていただき、しっかり案内できるとよりよいと思います。ご高齢の方でも混乱なく服薬指導を受けられるシステムや体制作りは重要ですね。

例えば、糖尿病を専門としているクリニックなどは、専門性の高い薬剤師に対応を依頼したいケースも多いため、オンライン診療・オンライン服薬指導の連携は非常に重要になるでしょう。薬局でもハイブリットが重要と考えるので、地域によってはオンライン服薬指導後に直接配達するなど、地域に根付いたサポートができるとよいと思います。

また、管理栄養士によるオンライン栄養相談もニーズがあると思います。対面で栄養指導を受けたいけれど、その時間を作るのが難しいことや、薬局やクリニックに栄養士がいないことが多いと思うので、オンライン栄養相談を行えるという付加価値があることで、オンライン診療・オンライン服薬指導の可能性も広がると思います。

――オンライン診療を始めたい方に一言お願いします。

まずはやってみるしかないと思います。最初は試行錯誤が必要で大変かもしれませんが、実施していくなかで勘所を掴み、自分の診療パターンにはまるとうまく進んでいきます。慣れてしまえば対面よりも早く終わることもありますし、短時間で終わっても患者さまの満足度は高いです。それぞれのクリニックに合わせてフローを洗練させていくと、医療機関側の手間を減らし、患者さまの治療継続率を上げることもでき、満足度も上げることができるかもしれません。

オンライン診療システムの導入や運用にかかるコストなども見極めて工夫が必要ですが、活用方法はたくさんありますので、少しでもオンライン診療の導入を検討中の先生は、まず始めてみることが良いのではないでしょうか。

病院情報

医療法人社団M-FOREST みやざきRCクリニック

URL: https://kita-shinagawa.clinic/
住所:東京都品川区北品川2-23-2 レジデンス品川3F

プロフィール

宮崎 雅樹

みやざきRCクリニック 院長
専門:呼吸器内科
群馬大学医学部医学科卒業。医学博士。
大学卒業後、慶應義塾大学病院や東京都済生会中央病院などの総合病院に10年間勤務。
現在は、虎ノ門病院の非常勤医や品川区医師会の理事なども務めている。
「患者さまやご家族の心にそっと寄り添い、地域の人たちから頼りにされるドクターでありたい」という想いを胸に、日々診察を行っている。 (敬称略)

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