長期収載品の選定療養に伴う患者負担の変化や実務対応を、具体例を交えわかりやすく解説します。
診療所やクリニックを経営する医師、医療従事者にとって、長期収載品の選定療養制度は経営や患者さまの対応に直結する重要な仕組みです。医療費の増加を背景に厚生労働省が導入したこの制度は、ジェネリック医薬品を優先的に選ぶことで負担軽減と保険医療の持続可能性を図るものです。対象となる先発医薬品やジェネリックの違い、患者負担や価格の変更点、医療機関・薬局の在庫管理、案内方法など、現場で求められる知識も多岐にわたります。この記事では、制度の概要や対象リスト、実務対応・相談方法まで具体的に解説します。適切な判断と案内ができることで、患者さま・医療機関双方の信頼と満足度向上にもつながります。
目次
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選定療養制度の概要と導入背景~長期収載品が対象になった理由とは?~
長期収載品(ジェネリック医薬品のある先発医薬品)を対象とした選定療養制度は、2024年10月1日から開始されました。これは、患者さまが医薬品の選択にあたり、価格や機能が同等であるにも関わらず「ブランド」もしくは「先発医薬品」を選ぶケースが多い実情を踏まえたものです。選定療養自体は保険適用と自己負担の併用が認められており、差額ベッド代や院外処方などの事例が既に存在します。本制度は医療サービスの多様な選択肢を尊重しつつ、そのコストについても患者さまに理解と協力を求める目的で設計されています。
中医協の議論では、先発医薬品を処方する主な理由として「処方箋に患者希望が指示されていた」、「処方箋に患者希望は指示されていないが、患者が長期収載品の調剤を希望した」が多いというデータが取り上げられ、結果的に先発選択は患者さま自身の特別な希望として扱う流れが強まりました。
よって、今後はジェネリック医薬品があるにも関わらず長期収載品を患者さま自身が選択する場合、その差額の一部を自己負担することが義務化されています。この制度設計によって、医療費適正化や公的保険の持続性という社会的課題へのアプローチがより明確になり、診療所やクリニックにとっては制度への理解と患者さまへの案内が一層不可欠といえます。結果として、患者さまに選択肢を提示しつつ、医療従事者として誠実な案内と情報提供を行う役割の重要性が高まります。
【出典】厚生労働省「後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査報告書(案)<概要>」より抜粋
長期収載品とジェネリック医薬品の違いを正しく知ろう
長期収載品は、ジェネリック医薬品が既に認可・市販されている先発医薬品を指します。一方、ジェネリック医薬品は、先発医薬品と有効成分・効能・効果が同一であり、品質や安全性も薬事基準で厳格に審査されています。コスト面でも大きな違いがあり、ジェネリック医薬品は薬価が抑えられているため、患者さまや保険財政への負担が軽減されます。医療現場では、基本的な用法・用量が共通しているため、長期療養においてもジェネリック医薬品への切替が推奨されてきました。
しかし一部の患者さまからは、先発医薬品に対する信頼や服薬継続への安心感などを理由に、長期収載品の継続希望がみられます。これが、2024年10月以降における選定療養の議論の大きな要素となっています。
なお、厚生労働省はページや資料で、対象医薬品や通知内容を随時公表し、診療現場や薬局が適切に情報提供・患者相談を行える体制を整備しています。
医療従事者としては、両者の違いと制度趣旨を正確に理解し、必要に応じて資料や一覧リストを活用しながら患者さまと丁寧な対話を続けることが求められます。適切な選択肢提示と説明責任を徹底することで、日本の医薬品利用の現場がより透明性と信頼性に基づくものとなります。
厚生労働省が進める医療費抑制と選定療養導入の目的
長期収載品に対して選定療養費制度が導入される背景には、保険医療費の増大という社会的課題への対応があります。医療費は年々増加しており、その中でも医薬品にかかる費用が大きな割合を占めています。ジェネリック医薬品への置換が進むことにより、薬価全体の抑制と医療財源の持続的確保が期待されています。選定療養費制度では、患者さまが自己負担で長期収載品を希望する場合、薬価差額の一部を負担し、公的保険による無制限な先発選択を抑制します。根拠として、制度開始前の中医協の議論や各種調査結果から、多くのケースで先発選択は患者さまの希望によるもので、必ずしも医療上の必要性が根拠となっていない実態が明らかにされています。先発医薬品の希望は、差額ベッドや大病院初診時と同様に「特別な選択」と捉え直されることになりました。したがって、選定療養は医療費の適正化と透明性向上という政策の一環として大きな意義があります。診療所やクリニックも、運用開始に伴って患者さまへの説明や院内案内、お知らせ掲載などが求められます。
「長期収載品の選定療養」の対象となる医薬品リストと確認方法
長期収載品の選定療養費は2024年10月1日から導入されました。対象となる医薬品は、厚生労働省が定めるリストに掲載されている、ジェネリック医薬品が市販されて一定期間以上経過した先発医薬品です。制度開始当初は、ジェネリック医薬品への置換率が一定割合を超えている先発医薬品も対象となりましたが、最新の情報は下記参考資料内の「対象医薬品リストについて」をご確認ください。
対象となるのは、外来患者を基本とし、在宅注射薬剤も含まれます。医師が医療上の必要性を判断した場合、ジェネリック医薬品が在庫不足などで提供困難な場合、バイオ医薬品や入院患者は適用除外となります。
長期収載品の選定療養費は、先発医薬品の薬価と、ジェネリック医薬品の最も低い薬価(または平均的な薬価)との差額の一部を患者さまが自己負担します。この追加自己負担は課税対象となるため、消費税分を加えての支払となります。
具体的な対象医薬品のリストは厚生労働省や関連機関の資料・ホームページ等で随時公表・更新されています。確認方法としては、最新資料・一覧や検索ページの利用、事務・薬剤部門との連携による定期的な確認運用が推奨されます。外来担当者や薬局はリスト更新時のお知らせや案内、患者さまからの相談にも適切に対応できる体制を整えておく必要があります。選定療養対象薬の確認は、説明責任を徹底するうえで不可欠な基準といえるでしょう。
【参考】厚生労働省「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について」
自分の処方薬が選定療養の対象かどうか簡単に確認する方法
2024年10月から導入された選定療養費制度により、処方箋様式も変更されます。新しい処方箋には「変更不可(医療上必要)」と「患者希望」欄が設けられ、どちらにチェックが入っているかで選定療養の対象か否かが一目で分かります。「変更不可」にチェックがある場合は医療上の理由があると判断され、選定療養の負担対象外となり、患者さまは自己負担を求められません。一方、「患者希望」欄にチェックがあれば、長期収載品の選定療養費が適用され、薬価差額の4分の1を患者さま自身が追加負担することになります。
なお、経過措置として10月以降もしばらくの間は旧様式の処方箋を手書きで加筆修正し利用することも認められています(2025年5月時点)。薬局では、処方箋の該当欄を必ず確認し、必要に応じて患者さまや医師に状況を確認する体制を整えることが不可欠です。確認の徹底が、患者さまの納得と適切な会計対応につながります。
特別な場合や例外的に対象外となる医薬品についての注意点
選定療養費の対象となるのは、厚生労働省が定めるリストに掲載されている先発医薬品ですが、例外的に、医師が医療上の必要性を認めた場合や、在庫不足等でジェネリック医薬品の提供が困難な状況では対象外となります。また、バイオ医薬品や入院患者も対象には含まれません。
事務部門や薬剤部門では、患者さまの希望や状況に応じてこの区分を正確に確認し、医療機関と薬局が連携して患者さまへの説明・案内を徹底することが重要です。運用初期は、処方箋の記載方法や在庫管理、選定療養費対象の医薬品リストの更新などに継続して注意を払いましょう。こうした例外規定があることで、医療現場では柔軟かつ安全な対応が可能となり、患者さまの保護も担保されます。
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選定療養導入後の患者さまの医療費 自己負担の具体的変化とは?
選定療養費制度導入により、長期収載品(先発医薬品)を希望して選択する患者さまには、これまでの保険診療費用に加え新たに自己負担額が生じます。この制度による最大の変化は、先発医薬品とジェネリック医薬品との薬価差額の4分の1を、選定療養費として患者さまが追加で負担する仕組みです。この追加自己負担には消費税も含まれます。もともと先発医薬品を継続使用していた患者さまは、保険診療の通常負担(例:3割負担)のほかに、長期収載品を選んだ分の選定療養費が別建てで必要になります。たとえば同一成分でジェネリック医薬品の薬価が100円、先発医薬品の薬価が120円の場合、差額20円の一部が追加で患者さまの負担となります。具体的な負担額は、医薬品や薬価によって異なります。これはあくまで1剤あたりの計算で、服用薬の数や日数によって実際の影響が異なります。
診療所や薬局では、患者さまへの料金説明や見積金額の案内が求められる場面が増えるでしょう。新制度下での正確な説明が患者さま満足度や診療品質担保に直結することから、制度の運用や薬価情報の更新に日々気を配ることが必要です。医療機関は案内チラシや掲示物を充実させ、患者さまの納得と同意を得ながら丁寧に対応していくことが不可欠です。
従来の先発医薬品を引き続き希望する場合の追加負担金額の計算例
先発医薬品とジェネリック医薬品の薬価差額の4分の1が新たな追加費用となります。医療上の必要性がなく、患者さま自身の希望による先発医薬品の選択については、この「特別料金」の扱いです。たとえば先発医薬品の薬価が120円、ジェネリック医薬品が100円とすると、差額20円の4分の1で5円が追加負担となります。残る4分の3の差額(15円)は従来通り公的保険でカバーされ、通常の保険診療における自己負担割合(例:3割負担)と併用して計算されます。患者さまの負担は薬の処方数や日数によっても変動するため、診療所や薬局での案内時には、具体的な計算例や薬価一覧を活用し、患者さまにあわせてわかりやすい説明を心がけることが必要です。こうした情報を積極的に提供することで、患者さまの理解を深め、制度変更への不安や混乱の防止につなげることが可能です。
医療機関と薬局の対応方法~在庫管理や患者さまへ案内のポイント~
医療機関と薬局は、長期収載品の選定療養制度導入に伴い、多岐にわたる対応が求められます。まず、院内や薬局内での掲示ポスターや窓口チラシによる広報を徹底し、患者さまが仕組みや料金、対象医薬品リストを理解できる環境を整備します。ホームページや案内資料も活用し、患者さま自身が情報検索しやすいようリンクや関連資料も充実させるとよいでしょう。
在庫管理に関しては、対象となる先発医薬品・ジェネリック医薬品ともにリストや価格改定を的確に反映した在庫マップの管理表を更新し、入荷・出荷状況を定期的に確認する仕組みが必要です。外来・院外・在宅にまたがる連携や在庫不足時の臨機応変な対応も欠かせません。担当医師・薬剤師・事務部門間では、処方箋様式変更や記載方法に関する共通理解を図り、患者さまの希望や医師判断を正しく拾える体制を強化します。特に、薬局が患者さまへの説明を行う上で、処方箋の「変更不可(医療上必要)」と「患者希望」欄の明確な記載にご協力いただけますと、薬局での患者さまへのスムーズな説明につながります。制度に関する厚生労働省PDFや院内リストなど、行政から発信される資料を確実に確認・共有し、疑問点は各種相談窓口や担当部門へ速やかに問い合わせる仕組みも整えるべきです。全体的に、患者さまにとってわかりやすく透明性を保ちながら、診療・調剤提供体制の維持管理と業務の効率化を両立させる対応が求められます。
医師・薬剤師が患者さまに対して行うべき正確な情報提供とは?
医師や薬剤師は、選定療養制度の内容や薬価の差額、自己負担の仕組みについて明確かつ平易な説明が求められます。患者さまが長期収載品とジェネリック医薬品を選択する場面では、それぞれの特徴や価格、療養費の負担額、対象外となるケースなどを具体的に案内することが大切です。制度改定の背景や厚生労働省の方針、医療費全体の動向も踏まえながら、患者さまが納得して自らの治療方針を選んでもらえるよう対話型の説明を意識しましょう。
自院や薬局で作成する案内チラシや一覧資料、公式サイト上での情報提供、電話や対面での相談対応なども活用し、不明点の解消や誤解の予防に努めます。実際の料金例や経過措置、個々の事情に応じて選択可能な範囲を正確に伝えることが重要です。適切な情報提供は患者さまの信頼獲得、後日のトラブル回避にも直結します。制度や対象リスト・資料の更新があれば速やかに共有し、現場スタッフ全員が同じ基準で説明できる環境を整えておくことが業務品質向上につながります。
院内・院外薬局それぞれの具体的な運用方法と注意すべき問題点
院内薬局では、診療科・部門と密接な連携が求められます。処方箋様式の変更内容に即時対応し、長期収載品とジェネリック医薬品の在庫状況や価格リストを常に最新の状態に更新しましょう。管理部門と協力し、患者さま向け掲示や案内文書を目立つ場所に掲げることで、混乱を防ぎやすくなります。在庫管理の徹底や、担当者間の情報共有も重要なポイントです。
一方、院外薬局では、多様な医療機関からの処方箋を受け付けるため、選定療養の対象医薬品や対象外ケースについて網羅的に把握し、患者さまからの質問に即座に対応できる体制を構築する必要があります。また、外来患者や在宅医療、入院患者ごとに異なる対応ガイドラインを持ち、電話・ホームページでの案内や、薬価・差額リストの公開などで信頼性を高めます。両者ともに、厚生労働省や関連機関からの案内・リスト・基準改定には速やかに対応し、薬局・病院の管理体制全体で患者さまの保護と業務効率化の両立を図ることが大切です。情報更新の遅れや説明不足がトラブルの火種となるため、定期的な勉強会や情報共有会の開催も推奨されます。
まとめ
長期収載品の選定療養費制度導入は、医療費の適正化と持続可能な医療制度構築への大きな一歩と言えます。患者さまと医療機関が連携し、最新情報への理解を深めたうえで、お互いに納得できる医薬品選択を進めていくことが重要です。医師や薬剤師は選定療養の仕組みや料金の説明、薬価の違いや経過措置内容などを、患者さま一人ひとりに合わせてわかりやすく案内し、必要に応じて資料やリスト、ホームページも案内できる体制を強化することが求められます。
患者さま側も自己負担や保険診療のルールについて正しい知識を持ち、自分自身の希望や安心感と費用負担のバランスを考えた選択を目指します。医療現場では、こうした双方の対話が基盤となり、診療所・クリニック単位での制度対応力が問われています。医療従事者が積極的に制度案内・相談窓口を設け、持続可能な医療環境作りに貢献する姿勢こそが、これからの時代の標準となるでしょう。