
医療現場でのデジタル化が急速に進む中、従来の紙保険証が2025年12月1日をもって廃止され、「マイナ保険証」もしくは「資格確認書」による運用が本格化しています。診療所やクリニックを経営する医師や医療従事者にとって、どこまで個人の医療情報が患者さまの同意のもとで提供され、どのような登録や確認、資格認証が必要となるのか、正しい知識が不可欠です。この記事では、制度の基本と仕組み、受診時の対応や受付方法、認証の実際、マイナポータルやスマートフォンでの情報取得手順まで幅広く解説します。制度理解を深めることで、患者さまへの案内や医療提供体制の適切な運用・方針設定に直結します。最新の政策や全国の対応状況も網羅し、今後の取り組みにお役立てください。
目次
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マイナ保険証での情報提供制度とは何か?仕組みと基本方針を解説
マイナ保険証での情報提供制度は、マイナンバーカードを健康保険証として利用登録し、医療機関や薬局における受診時にカードリーダーを用いて本人確認および医療情報の共有について同意を得る仕組みです。顔認証付きカードリーダーを活用すると、本人確認の精度が高まり、医師や薬剤師は資格確認や過去の医療履歴の確認を正確かつ円滑に行うことができます。これにより、患者さまが過去に受けた診療内容や薬剤投与歴、健診結果などの情報が、本人の同意を前提として医療機関等で共有され、最適な医療サービス提供が期待されます。
2025年10月末時点でマイナンバーカード保有者の8割以上が利用登録を完了しており、全国規模で制度の基盤が整備されつつあります。医師やクリニックがこの仕組みを導入することで、患者さま対応の迅速化や医療の質向上、保険資格の即時確認による事務負担軽減などの効果が見込まれます。クリニックや薬局での活用には確実な本人認証、マイナポータルとの連携、情報の適切な取扱いが求められます。従来の紙保険証からの大きな転換となるため、基礎知識や運用方法を正しく理解し、適切な対応をすることが必要です。
【参考】デジタル庁「マイナンバーカードの普及に関するダッシュボード」
マイナンバーカードを健康保険証として利用する基本登録方法
2025年12月1日に従来の健康保険証は有効期限を迎え、12月2日以降はマイナ保険証もしくは資格確認書が保険診療のための必要書類となりました。
マイナンバーカードを健康保険証として利用するには、マイナンバーカードの取得後に、健康保険証利用登録が必要です。登録方法は次の3つがあります。
- 医療機関の顔認証付きカードリーダーから申請する
医療機関・薬局に設置している顔認証付きカードリーダーから、健康保険証利用の申請が可能です。マイナ受付をする際、健康保険証利用登録がお済みでない方は、「マイナンバーカードを保険証として利用するための登録が必要です」というメッセージが表示されますので、画面の案内に従い登録を完了すれば、健康保険証利用が可能になります。

【出典】厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用登録(顔認証付きカードリーダー)」
マイナンバーカードをお持ちの患者さまが来局された際には、この方法で健康保険証利用登録をしていただくのがスムーズです。
- マイナポータルから申請する
患者さまがマイナポータルアプリに対応しているスマートフォンをご利用の場合は、マイナポータルからも健康保険証利用登録が可能です。

【出典】厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用登録(マイナポータル)」
患者さまがマイナンバーカードのご持参を忘れた場合は、この方法でご自宅などでも登録が可能であることをお伝えし、次回以降の来院時にマイナンバーカードのご持参を促すとよいでしょう。
- セブン銀行ATMから申請する
患者さまがマイナンバーカードのご持参をお忘れ、かつマイナポータルに対応するスマートフォンをお持ちでない場合、セブン銀行ATMからの申請も可能です。
【参考】厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用方法」
マイナ保険証による医療情報の提供内容と同意取得
マイナ保険証による医療情報の提供では、受診時に患者さまに同意を求める確認画面をカードリーダー等で表示し、過去の診療・薬剤情報、特定健診結果などの提供範囲を明示します。患者さまはどの情報をどこまで共有するかをその場で選択できる仕組みになっています。
確認画面では、提供先(医療機関・薬局)、共有される情報の種類、同意の有無などが明確に表示され、患者さまは非提供を選ぶことも可能なため、患者さまの意思が尊重される運用となっています。具体的な情報範囲としては、過去の受診履歴、薬剤の投与歴、健康診断・特定健診の結果などが該当します。これにより新規の診察や処方でも過去情報に基づいたより良い医療判断が可能となります。提供された情報は診療や投薬にのみ使用され、本人が同意しない限り他用途に流用されることはなく、個人の情報保護にも十分配慮されています。
医療機関におけるマイナ保険証の利用
医療機関でマイナ保険証を利用する場合、患者さまはまず、受付時にカードまたは対応スマートフォンを顔認証付きリーダーへ挿入またはかざして本人確認を行います。医療機関は保険資格が即時確認できるため、患者さまの加入保険内容や負担割合の誤認リスクが大きく低減し、窓口事務の効率化が実現します。
過去の診療歴や薬剤情報、健診結果などの情報提供には、患者さまの同意取得が必要です。受付時に顔認証付きリーダーまたは窓口で、どの情報を共有するかを明確に案内し、同意または非同意を確認します。これにより不要な情報流出を防ぐとともに、患者さまのプライバシーと信頼性の維持を徹底しています。患者さまの同意を得て提供された医療情報は、以下のような形で閲覧できます。

【出典】厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用のメリット」
マイナ保険証利用促進のために
マイナ保険証の本格運用が開始されたものの、マイナ保険証の利用率は37%程度(2025年10月)となっています。さらなる利活用を進めるべく、機能の拡充が開始しています。
【参考】厚生労働省「マイナ保険証の利用促進等について」
例えば、医療受給者証や診察券のマイナンバーカードへの一本化があります。これにより、医療保険だけでなく医療費助成(公費負担医療、地方単独医療費助成)のオンライン資格確認が可能になり、診療報酬請求の際の誤りが減少し、事務作業が効率化することが見込まれます。
マイナ受付やオンライン資格確認に関するシステムを導入済みの医療機関であっても、この機能の利用にあたりシステム改修が必要であれば、助成金が適用される場合があるため、導入を検討されてはいかがでしょうか。
【参考】医療機関等向け総合ポータルサイト「医療費助成の受給者証及び診察券のマイナンバーカードへの一体化の概要」
さらに、マイナ保険証の利用率は「医療DX推進体制整備加算」の算定要件にもなっています。2025年10月より各加算の算定に必要なマイナ保険証利用率実績は引き上げられ、2026年3月からはさらに高い数値が設定されています。マイナ保険証の利用率を向上させることは、経営的な視点からも重要な取り組みです。

【出典】厚生労働省「医療DX推進体制整備加算の見直し(令和7年10月以降)」
【関連記事】「令和7年改定 医療DX推進体制整備加算を徹底解説!」
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マイナ保険証が利用できない場合の対応
停電・通信障害・端末不具合・ICチップ破損などで資格確認ができない場合でも、次の代替手段で資格確認が行えます。
- マイナンバーカードとマイナポータルの画面の提示
- マイナンバーカードと資格情報のお知らせの提示
- 資格確認に必要な情報の口頭確認(※再診の場合)
- 保険者資格申立書
また、災害時の特別措置として、マイナンバーカードを持参しなくても、薬剤情報等の閲覧が可能な機能があります。患者さまから氏名、生年月日等必要な情報と情報提供の同意が得られれば、必要な情報の取得が可能です。
緊急時の案内や受付体制についてはスタッフ研修、利用者への事前周知が重要です。いずれも患者負担や保険診療の継続に配慮した対応が求められます。
【参考】厚生労働省「資格確認方法について」
個人情報保護と情報提供に関する患者さまの不安・よくある質問
マイナ保険証の利用を不安に思う患者さまもいます。マイナ保険証の利用促進には、患者さまの不安を取り除くための説明が必要です。具体的には、以下の点を丁寧に説明することで、患者さまの不安を軽減することができます。
- 医療機関や薬局では患者さまが同意した情報のみ、診療や薬剤管理目的で閲覧可能であること
- 同意していない情報が提供されることはなく、厚生労働省や各保険者によるガイドラインに則り管理が徹底されていること
- 提供された情報は診療や投薬のみに使用され、他の事業や用途へ転用される心配はないこと
厚生労働省やデジタル庁では、マイナ保険証に関するよくある質問とその回答を公開しています。これらの内容を参考にするのもよいでしょう。
【参考】厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用についてよくある質問」
【参考】デジタル庁「よくある質問:マイナンバーカードの健康保険証利用について」
まとめ:マイナ保険証による情報提供制度の今後と社会への影響
マイナ保険証を活用した情報提供制度は、今後ますます医療現場における効率化、患者さま情報の活用による安全性向上、無資格受診の防止などに寄与していきます。顔認証付きカードリーダーやスマートフォンでの認証により、本人確認や診療情報・薬剤情報の即時共有が可能となり、医師・薬剤師はより正確で迅速な診療判断ができる環境が整います。マイナンバーカード保有者の大多数が利用登録を完了しつつあり、制度基盤は急速に拡大中です。加えて、個人情報保護や患者同意を重視した運用が徹底されているため、信頼性の高い医療サービスの実現が期待されます。医療機関や薬局での導入が進む中、自院の受付や説明体制、システム対応の見直しに早めに着手することが重要です。マイナ保険証制度を上手に活用し、より良い医療、健全な社会保障制度の発展に積極的に取り組みましょう。
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