
医療現場でのデジタル化が加速する中、オンライン診療は、自宅や医療機関以外の場所でも受診できるよう、制度の枠組みが大きく広がりつつあります。特に注目されているのが、2025年度の医療法改正によって制度化される特定オンライン診療受診施設です。
これまで、患者さまが医療機関以外の場所でオンライン診療を受ける際には、場所の確保や責任の所在が曖昧なケースもありました。新制度では、公民館や郵便局、駅ナカ、さらには職場や介護施設などを「受診の場」として明確に位置づけ、一定の基準を設けることで、より安全で利便性の高いオンライン診療の提供を目指しています。
この記事では、制度の基本概念から、設置者が行うべき届出、運営上の責任、そして今後の医療提供体制に与える影響までを幅広く解説します。
目次
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特定オンライン診療受診施設の基本と仕組み
特定オンライン診療受診施設とは、オンライン診療を受ける患者さまに対し、その場所を業として提供する施設を指します。まずは、この制度が創設された背景と定義について見ていきましょう。
制度創設の背景:医療アクセスの向上と「D to P with N」の推進
従来のオンライン診療は、原則として患者さまの居宅または医療機関で行われることが想定されていました。しかし、へき地や医師不足の地域、あるいは多忙な働く世代にとって、自宅以外での受診ニーズが高まっていました。
特に、看護師や事務員が付き添ってオンライン診療をサポートする「D to P with N(Doctor to Patient with Nurse)」の形を、より多様な場所で展開できるよう、法的に場所の定義を定めたのが本制度の狙いです。
2023年の厚労省通知により、へき地等の医療確保が困難な地域に限り、特例的に医師が常駐しないオンライン診療専用の診療所の開設が認められました。さらに、2024年1月から、へき地等に限らず、必要性があると認めた場合において、特例的に、医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設が認められることとなりました。しかし、いずれも診療所として位置づけられています。
特定オンライン診療受診施設の制度化により、オンライン診療を受診する専用の施設として、より様々な場所での受診が可能となります。
オンライン診療受診施設の定義
厚生労働省の検討会資料などによると、オンライン診療受診施設は以下のように定義されます。
施設の設置者が、業として、オンライン診療を行う医師又は歯科医師の勤務する病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院に対して、その行うオンライン診療を患者が受ける場所として提供する施設
【参考】厚生労働省「医療法等改正を踏まえた対応について」
これまで診療所としての開設が必要だったケースでも、一定の要件を満たすことで、このオンライン診療受診施設として届け出ることで運営が可能になります。
特定オンライン診療受診施設の設置・運営ルール
特定オンライン診療受診施設には、安全性を担保するための法的義務が課されます。設置主体は必ずしも医療法人である必要はありませんが、都道府県知事への届出や運営者の設置が必須となります。

【出典】厚生労働省「医療法等改正を踏まえた対応について」
都道府県知事への届出義務
特定オンライン診療受診施設の設置者は、所在地の都道府県知事に対して事前に届出を行う必要があります。これには、施設の所在地、構造設備の概要、管理運営の責任者(運営者)などが含まれます。
届け出は設置後10日以内に行わなければなりません。
運営者の配置
施設には「運営者」を置かなければなりません。運営者の役割は、施設の衛生管理やプライバシー保護、通信環境の維持など、オンライン診療が適切に行われるための環境整備を担うことです。
責任の所在:医師の指導監督
重要な点として、特定オンライン診療受診施設で行われるオンライン診療自体の実施責任は、オンライン診療を行う病院・診療所の医師が負います。
医療機関の管理者は、提供する施設が「オンライン診療指針」に適合しているかを確認し、施設の運営者に対して必要な指導や情報の共有を行う義務があります。つまり、施設そのものは医療機関でなくとも、医療提供の質に関しては医師が主導権を持って管理する仕組みとなっています。
オンライン診療実施の基準と求められる環境整備
現在、オンライン診療の実施にあたり遵守すべき事項は「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に定められています。また、医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設にあたり求められる基準は、「特例的に医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設について」に記載されています。
具体的には以下のような点が挙げられます。
- 患者さまの合意が得られていること
- 医師が立てた診療計画に基づいて診療を実施すること
- 医師と患者さまが双方に本人確認を行えること
- 必要に応じて対面診療に切り替えることが可能であること
- 医師と患者さまはともに適切な所在でオンライン診療を行うこと
「特例的に医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設について」には、患者さまの所在は、清潔かつ安全であり、プライバシーが保たれた空間であることが記載されています。特定オンライン診療受診施設においても、これらの基準は満たす必要があります。また、診療が途切れることがないよう、インターネット環境が安定していることも重要です。
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医療機関における「特定オンライン診療受診施設」活用のメリット
医療機関側が、外部の特定オンライン診療受診施設と連携して診療を行うことには、多くのメリットがあります。
- 新たな患者層の開拓
駅ナカや職場、介護施設が受診の場となることで、これまで「通院時間が取れない」「足が悪くて外出が難しい」と諦めていた潜在的な患者さまへのアプローチが可能になります。特に「ついで受診」を可能にする駅ナカブースなどは、働く世代の健康管理において大きな武器となります。
- 医療提供体制の効率化
へき地診療所などに医師が常駐しなくても、特定オンライン診療受診施設として運営される拠点とオンラインでつなぐことで、広域的な医療カバーが可能になります。これにより、医師の移動時間の削減や、働き方改革への寄与が期待されます。
また、看護師等の専門スタッフを特定オンライン診療受診施設に配置できれば、自宅でのオンライン診療の受診では難しい信頼性の高いバイタルデータの取得や触診代行等により診療の精度の向上も期待できます。
導入に向けたステップと注意点
特定オンライン診療受診施設の活用を検討している医療機関や事業者は、以下のステップで準備を進めることが推奨されます。
- 厚生労働省の指針・ガイドラインの確認
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」および「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を確認しましょう。法改正に伴い、細かな運用規定が順次発表されるため、常に最新情報を追う必要があります。 - オンライン診療システムの選定
予約、ビデオ通話、オンライン決済、処方箋の送付(電子処方箋対応)が一気通貫で行えるシステムを選定します。特に特定オンライン診療受診施設では、施設のスタッフと医療機関側の連携が重要になるため、多拠点管理がしやすいツールが適しています。 - 自治体(保健所・都道府県)への事前相談
届出制となるため、設置予定地の都道府県知事(事務窓口は保健所等)への事前相談がスムーズな開設の鍵となります。建物の構造や運営体制が「受診施設」として認められるか、事前に確認しておきましょう。 - 運営マニュアルの作成とスタッフ教育
オンライン診療特有のトラブル(通信断絶、操作不明など)への対応、緊急時の対面診療への切り替えフロー、個人情報保護に関する教育など、現場スタッフ向けの運用マニュアルを整備します。
まとめ:特定オンライン診療受診施設 の今後と医療DXの推進
「オンライン診療受診施設」の創設は、日本の医療提供体制における大きな転換点となります。
医療機関にとっては、病院の外に診察室の機能を持たせることができるようになり、患者さまにとっては、より身近な場所で専門医の診察を受けられるようになります。マイナ保険証や電子処方箋といった医療DXのインフラ整備と相まって、オンライン診療は「特別な選択肢」から「日常的な受診スタイル」へと進化していくでしょう。
今後の最新情報や、具体的な届出様式については、厚生労働省の公式発表や各自治体の案内を継続的にチェックしてください。
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