病院・クリニック

オンライン診療が医療の「セーフティーネット」になるといい

医療法人社団法山会 山下診療所
理事長 山下 巌 先生

さまざまな学会に所属し、地域医療に多面的な取り組みをされている山下巖先生は、オンライン診療の分野においても数多くの実践を持ち、その活用に関する研究・協議に精力的にご活動されています。

肩書・ご活動の状況などはインタビュー当時(20221月)のものです。

実際の対談は、感染症対策に万全を期して実施いたしました。

患者さまの「本当のニーズ」を探る

オンライン診療は2018年3月にガイドラインが発表されて条件が定義され、同年4月にはオンライン診療にかかる診療報酬も新設されましたが、なかなか普及しないという課題がありました。
その後、2020年に新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、時限的に初診からの実施が解禁され、オンライン診療を利用したいと希望する患者さまは一気に増えたと実感しています。
なぜ、コロナ以前には普及しなかったのか。診療報酬に課題があるという声もありましたが、私が特に感じたのは、「本当のニーズを把握できていなかったから」ではないかということです。
例えばへき地や離島では、オンライン診療のニーズが高いと考えられてきていましたが、それほど普及しなかったという現実があります。その原因は、通信環境や端末、クレジットカード保有など、オンライン診療に必要な環境が整っていなかったり、あるいはそもそもそのような受診の仕方があるという情報を知らなかったり、といったことが考えられます。
すると、ひとつ疑問が出てきます。それは「本当のニーズ」にあっているのかどうか、ということです。ニーズがあるはずと想定して推進しても普及しなければ、そこに「本当のニーズ」はなかったと考えるべきです。

新型コロナウイルス感染症が明らかにした患者さまのニーズ

その後、新型コロナウイルス感染症の影響から医療機関の受診を控える人たちが増えましたが、そのタイミングでオンライン診療のニーズは明らかに高まりました。
インターネットで検索して当院の情報に行き当たったという方から、オンライン診療を受けたいというお問い合わせやご依頼をいただくことも増えました。
新型コロナウイルスに感染したのではないかと心配になり自宅で自主隔離しているが、医療機関を受診したいと涙ながらにご連絡をいただく方もいらっしゃいます。
また、感染リスクを考えて受診は控えたいが、定期的に医師に診てもらうことによって安心を得たい、という患者さまもいらっしゃいます。
そういった方々にオンライン診療は適していますし、ニーズも高いと感じています。特に、これまで対面診療で良い関係性を築けていた患者さまほど、コロナ禍であってもオンラインでつながることができれば、患者さまのアドヒアランスも向上し、治療効果が高いだろうと考えています。

アドヒアランス…患者さまご自身が治療・服薬に関して積極的にかかわること。

オンラインで不足する情報は別の情報で代用する

対面診療がいいのかオンライン診療がいいのか、といった議論がなされることがありますが、それはほとんど神学論争に近く、オンライン診療の適正な活用といった議論にステージを変えていく必要があります。
コロナ禍において、健康不安を抱えながらも受診をためらわれる方々にとって、オンライン診療が一筋の光となった例を、私は何度も見てきました。そういった、医療における「セーフティーネット」のような存在になれたらいいと思っており、そのためには、多くの事例をもって健全な使い方を協議・検討していく必要があります。
オンライン診療では、触診や打診ができませんので、診察における情報が不足するのではないかと思われがちですが、聴診器が壊れたから診察できないという医者がいないのと同じで、触診や打診ができなくても診察はできます。もし不足する情報があった場合でも、ほかの情報で代用できるからです。
息切れはしていないか、活気はあるかなどといった、画面の向こうから得られるあらゆる情報を複合的に組み合わせて、総合的に診断します。
オンライン診療における特有の情報制限が伴うので、慣れも必要になってくるかもしれませんが、複合的な情報による診察はオンラインであっても対面であっても同じだと考えています。
つまり、オンラインだから質の良い医療が提供できない、ということはないはずなのです。

チーム医療が叶うオンラインの世界を目指したい

対面診療とオンライン診療とでは、得られる情報が変わります。そしてオンライン診療では、患者さまと医師との間に距離を感じる、という感覚は残ると思います。
確かに手触り感のある診療ではないかもしれません。しかしインターネットの世界だからこそ実現できることもあると考えています。
例えば、オンラインネットワークで医師・患者さまに加え薬局薬剤師もつながることができたら、医師の処方に対する考えをその場で薬剤師が確認でき、疑義照会※を減らせる、あるいはやり取りをスムーズにすることができ、より質の高い医療提供体制が整うのではないかと考えています。または、薬局で患者さまにお薬をお渡しした後、医師と薬剤師とがコミュニケーションをとれるような機能が搭載されたオンラインツールがあったら、患者さまの状態を共有しあうことができ、付加価値の高い医療提供につながります。
これまでは電話やFAXでやり取りしていたことも、テレビ電話などを通じて顔の見える関係性になれば、実りあるコミュニケーションにつながりやすいのではないかと感じています。
このような機能を持つツールはまだないかもしれませんが、いつか近い未来に実現することを期待しています。

疑義照会…処方箋に記載されている内容に疑問点や不明点があった場合、薬剤師が処方箋を発行した医師に問い合わせて確認する行為。(参考情報:疑義照会とは? https://www.nicho.co.jp/column/14228/

病院情報

医療法人 社団法山会 山下診療所
URL: http://hozankai.com
山下診療所 自由が丘
住所:東京都目黒区自由が丘1-30-3 自由が丘東急ビル7階
山下診療所 大塚
住所:東京都豊島区北大塚2-13-1 ba07 5階

プロフィール

山下 巌
医療法人社団法山会 理事長
専門:内科・小児科、耳鼻咽喉科、アレルギー科、歯科・口腔外科
1989年 東京大学医学部医学科卒、1993年 同大大学院医学系研究科修了。
2008年から医療法人社団法山会・理事長。
2020年から「オンライン診療の健全な推進を図る有志の会」代表を務め、オンライン診療の普及活動を行っている。
(敬称略)