2022.09.06お役立ち情報

教えて! 電子処方箋 ~その3 電子処方箋の海外事例~

パソコンに向かう薬剤師

2023年1月から運用が開始される予定の「電子処方箋」。これまで全2回にわたって、電子処方箋の概要や利用方法についてお伝えしてきました。
今回は、少し視点を変えて、海外での電子処方箋の活用事例をお話いたします。

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教えて!電子処方箋 ~その1 電子処方箋とは?~
教えて!電子処方箋 ~その2 電子処方箋の利用方法~

e-health先進国、エストニア共和国

医療のデジタル化における、イギリスの取り組み

海外事例から学ぶこと

e-health先進国、エストニア共和国

早くから進んでいた、医療のデジタル化

医療分野のデジタル化が進むヨーロッパの国として、デンマークやフィンランドなどがあげられますが、「e-health(情報技術を医療に取り入れ、個々の健康増進をはかる取り組み)」が特に進んでいる国として、バルト海沿岸のエストニア共和国があります。エストニアでは、行政サービスの99%がオンラインで利用できるといわれ、医療分野のデジタル化も早くから行われてきました。
皆さんも一度は使ったことがあるかもしれませんが、無料でビデオ通話ができる「Skype(スカイプ)」も、実はエストニアで開発されたサービスです。

そんなエストニアでは、2008年に、すべての病院で診断・検診結果を電子的に保管するための医療情報制度「e-health system」が導入されました。カルテや処方箋情報などがデータとして保管され、国民一人ひとりの電子身分証明証(electronic ID)の番号と紐づいています。この電子身分証明証は、日本でいうマイナンバーカードのようなもので、エストニアでは国民の98%が所有しています。
保管されたデータは、ポータルサイト「e-Patient」で、電子身分証明証を用いて確認することが可能です。
2008年といえば、日本で初めてiPhoneが発売された年ですので、エストニアでは、いかに早い段階で医療サービスの電子化に取り組まれていたのかが分かります。

2010年、電子処方箋を導入

医療情報制度「e-health system」の導入から2年後の2010年、エストニアでは電子処方箋の運用がスタートしました。2019年時点で、エストニア国内で発行される処方箋の99%が電子処方箋だといわれています。

エストニアにおける電子処方箋の仕組みは、医師が発行した電子処方箋が薬局の情報システムにオンラインで連携され、患者さまは、電子身分証明証を提示することで、薬局で薬を受け取ることができるというものです。 2018年12月には、フィンランドの電子処方箋がエストニアでも使用可能になるなど、国境を越える医療システムの構築も進められています。

エストニアでは、2010 年に電子処方箋を導入して以降、急速に普及が進みましたが、その要因の一つに、インターネット上での個人認証を可能とする「国民IDカード」をほぼすべての国民が所有していたことがあげられます。エストニアの事例をそのまま日本に持ち込むことは難しいですが、今後の日本における医療のオンライン化や電子処方箋の普及を考えるうえでは参考になりそうです。

医療のデジタル化における、イギリスの取り組み

電子処方箋の仕組みを段階的に構築

エストニアと異なり国民ID制度のないイギリスでは、紙の処方箋の電子化に向けて、複数の仕組みを工夫しながら段階的に構築していきました。一部で紙のやり取りが残るなど、完全な電子化とまでいっていない現状がありますが、イギリス保健省によると、国内の全処方箋の70%がペーパーレスの電子処方箋として発行されています。
それでは、電子処方箋の運用の遷移を大きく3つに分けて見ていきます。

・Step1
医師は、国の機関が運営する「電子処方箋サーバー」というシステムに処方情報を登録する一方、これまで通り、患者さまに紙の処方箋を交付。(紙面には、処方情報が登録されたバーコードがついている。)
紙の処方箋が“正本”の位置づけで、薬局では、紙の処方箋でも、バーコードを読み込んで「電子処方箋サーバー」から処方情報を取得しても、いずれの方法でも調剤できる仕組みを構築。

・Step2
紙のやり取りをすることなく、オンラインで完結する電子処方箋の仕組みがスタート。医師が「電子処方箋サーバー」に処方情報を登録すると、患者さまが事前に指定した薬局だけが処方情報を取得可能。

・Stetp3
薬局を指定していない患者さまへの対応として、医師から専用のバーコードが付いた紙を渡す仕組みがスタート。患者さまは任意の薬局でそのバーコードを提示することで、お薬を受け取ることができるようになり、紙の処方箋のやり取りをする必要がなくなった。

それぞれ、電子処方箋が普及する速度に差はありますが、制度導入後、電子処方箋の発行を希望される患者さまが多くいらっしゃることで、処方箋の電子化は着実に進んでいます。それは、処方箋情報を含めた医療データが一元的に管理されることで、患者さまにとって、「過去に飲んだお薬をデータで確認できるようになる」「より正確なデータに基づく診察や服薬指導を受けることができる」などのメリットがあるからだと考えられます。
薬剤師から患者さまに、薬の正しい使用方法や保管方法、注意したい副作用や飲み合わせなどを説明すること。

海外事例から学ぶこと

日本でも2023年1月より電子処方箋が始まります。2022年7月22日に厚生労働省から医療機関にある通知がありました。それは、「医療機関におけるオンライン資格確認の原則義務化」です。これにより、すべての医療機関で電子処方箋を取り扱えるようになる未来がぐっと近づきました。
医療機関では、現在、オンライン資格確認と電子処方箋の導入準備が始まっており、すでに導入が完了している医療機関もあります。(全国の日本調剤の薬局で導入済み)
資格確認とは、医療機関・薬局の窓口で、患者さまの資格情報(加入している医療保険や自己負担限度額など)を確認すること。オンライン資格確認は、マイナンバーカードのICチップなどにより、オンラインで直近の資格情報の確認を行うことをいいます。

電子処方箋のメリットを享受するには、先のエストニアの例にもあったように、マイナンバーカードが必要となります。マイナンバーカードをまだ持っていない方は、早めに手続きをしておきましょう。
なお、マイナンバーカードに関しては、「マイナンバーカードを健康保険証として利用するには? 」の記事に記載していますので、こちらもぜひご覧ください。

来る電子処方箋時代に、便利で質の高い医療を受けられるよう、今から準備しておくことが大切です。

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